7月、旧式石炭火力の休廃止や石炭火力の輸出要件厳格化など、政府の方針転換とも思えるようなニュースが続いた。
環境省の働きかけによる影響が大きかったのだろうか。
小泉環境相がその経緯を Business Insiderのインタビューで語った。
「ファクトをベースにした議論を、関係省庁も巻き込んで積み上げたことが大きかった」。
まず関係する4省庁で石炭火力の輸出の要件見直しに向けて、議論を始めることに合意しました。
その見直しに向けて、日本の政府としては初めてだと思いますが、一般的な有識者検討会などではなく、石炭火力発電輸出への公的支援について、議論の土台となる客観的なファクトを積み上げるための「ファクト検討会」を立ち上げました。
石炭の好き嫌いやイデオロギーではなく、ファクトで議論する。
これが風穴を開ける最大の原動力になったと思います。 (出所:Business Insider)
5月、環境省は「ファクト検討会」の結果を公表していた。
「ファクト検討会」は、石炭火力輸出への公的支援に関するファクトを整理し、その方向性を検討するために開催されていたという。
この環境省の「ファクト検討会」の座長を務めたのは、東京大学未来ビジョン研究センター教授高村ゆかりさんだった。
6月、高村さんは、朝日新聞でこんなことを語っていた。
異なる意見があるとき、「事実」の認識の違いによることが少なくない。
私の専門の法学でも事実認定が重要だ。
特に状況が急速に変化している時には、最新の事実や将来の見通しを共有して適切な政策が何かを議論することが必要だ。 (出所:朝日新聞)
7月9日、梶山経産相が石炭火力発電の輸出支援についての厳格化を公表した。
「環境省が仕掛けた問題提起が政府の政策を変えたという点で、これ以上ない結果だ」と 小泉環境相はいう。
「今回、厳格化された輸出4要件を見てもらえれば、そのすべてをクリアして実際に売るところまでいく案件は事実上ないと言えるでしょう」とBusiness Insiderのインタビューにでそう語った。
前提として、環境省はエネルギー政策を所管していません。エネルギー政策を所管し、権限を持っているのは経済産業省です。
その中で、一体どうすれば、我々環境省の問題提起が政府の方針を変えられるのか。それは、政治の現実の中で、さまざまなアプローチがありました。 (出所:Business Insider)
Business Insiderで語る小泉大臣の言葉は印象的だ。
「コロナ後の経済社会活動の再開と復興は気候変動対策と一体として進め、より持続可能な経済社会をつくっていかなければいけません」
「その方向性は、私たち環境省の政策領域のど真ん中です」と小泉大臣はいう。
世界的にはグリーン・リカバリーやグリーン・リスタートと言われていますが、環境省では「リデザイン」と言っています。
経済社会の再設計、リデザインをしなければいけません。
リデザインには「3つの移行」が重要です。
1つ目は脱炭素社会への移行。2つ目は循環経済への移行。そして3つ目は分散型社会への移行。
この3つの移行を加速させることで、よりコロナ後の経済社会を持続可能な方向に持っていきたいと考えています。 (出所:Business Insider)
「大臣自身も、今の立場になってから、環境に対する意識は変わりましたか」と Business Insiderに問われた小泉大臣は、
「相当変わりましたね」と答え、
「プラスチックや水の使用量を削減できるリンスインシャンプーの固形石鹸も使うようになった」
「一つひとつ、自分の身の周りが変わってきていることを楽しんでいます」と答える。
まだ日本の中では、「エコは面倒くさい」「我慢を強いられる」と思われているところもある気がしますが、私は自分の変化を楽しんでいます。
ゲーム感覚で、次は何を変えていこうかなという感じです。
多くの人に伝えたいのは、小さな1つの行動をとると、次に連鎖するということです。
何から始めるかは、一人ひとりの状況や生活習慣によって決めればいいと思います。
その「何か」を始める機会やきっかけをメッセージとして届けていきたいです。 (出所:Business Insider)
インタビューで、産業界との関わりについても語る小泉大臣。経団連の中西会長らと定期的に朝食会を開いているという。
環境省と経団連が意見交換できるようになり、全く新しい関係に変わりつつあるという。
7月初旬、その経団連と小泉大臣で気候変動問題をテーマにした意見交換が行われたようだ。
この中で、「環境と経済の好循環は民間の活力が不可欠だ」と語ったという。
ロイターは、一連の石炭政策について「専門家からは、既定路線の範囲内で「脱石炭火力」には程遠いとの指摘が出ている」と伝える。
地球温暖化の防止に向け、日本のエネルギー政策を見直すには、さらなる切り込みが求められていると指摘する。
何事もとんとん拍子にことが進んで、常に100点満点の結果を示すことができれば、それに越したことはない。
それは理想であって、現実では、理想とのギャップを埋める作業が必要になる。
環境省と経産省は共同で「地球温暖化対策計画」の見直しに着手したという。
今まで動かないものが動き始めたのであれば、それはそれで成果として認めてもいいのだろう。次のマイルストーンは、来年のエネルギー基本計画の見直しとCOP26だろうか。
従来の環境は「規制」というイメージがある。そのイメージがあると、受け入れにくさがあるのかもしれない。
「環境政策は経済の重荷やコストではなく、成長と競争力の源泉」と小泉大臣はいう。こうしたことを共有していくことが今環境省に求められているともいう。
出来上がったしまった古い概念を突き破っていけるのだろうか。
「コロナ後の経済復興でも、九州はじめ日本各地で起きている災害からの復興でも、よりサステイナブルな方向へ、より早く移行しなければいけない」と小泉大臣はいう。
これからの環境省と小泉大臣に期待してみたい。
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