アメリカとは不思議な国だ。やはり独立心が強い国なのだろうか。気候変動に対して懐疑派が大統領だというのに、州や企業は公然と反旗を翻して、その良心を全うしようとする。もちろん、それがすべてではないが、同調圧力とは無縁な国ということなのだろうか。
米食肉工場が目指す「カーボンネガティブ」
驚くことに、ついに食肉生産工場までが、2030年までにカーボン・ネガティブを目指すという。畜産も、地球温暖化の原因となるGHG温室効果ガスが大量に排出する産業のひとつだ。
Forbesによると、米国では、農業の年間温室効果ガス排出量が全体の1割を排出し、業界別では4番目に大きい排出元となっているという。畜産は農業による排出量のほぼ半分を占め、とくに牛の畜産によるものが多いそうだ。
「農業の未来は環境フットプリントを最小限に抑えることにある」。
「当社にはその規模からして、先導していく責務がある」。
と、その会社のCEOは力を込めて話をするとForbesが伝える。
その会社とは、米豚肉生産最大手のスミスフィールド・フーズ。GHGのひとつメタンの排出を減らしながら、土壌の健康を回復させるという。土壌にCO2を隔離することに挑戦するということだろうか。
▽豚にやる飼料を変えてメタン放出量を減らす
▽自社で所有する農場で土地を耕さない不耕起栽培を導入し、土壌の健康を回復させる
▽再生可能エネルギー事業を拡大する
▽自社の流通経路を効率化する。 (出所:Forbes)
Forbesによれば、冷凍設備や照明、各種機器による電力消費量も「積極的に減らす」計画ももっているという。
パタゴニアが進める環境再生型農業 「不耕起栽培」
アウトドアメーカのパタゴニアも「不耕起栽培」を推奨し、それで育てられた作物からパタゴニアプロビジョンズという食品を作り、販売している。
そればかりでなく、「不耕起栽培」で育てられた綿花からはコットン製品を作る。
パタゴニアは、「不耕起栽培」をリジェネラティブ・オーガニック農業と呼び、「自然が意図した農法」だという。
食物と繊維を工業的に栽培することで私たちは気候を破壊してきました。
リジェネラティブ・オーガニック農業(不耕起栽培)は手遅れになる前に気候変動を阻止する実行可能な方法であると私たちは信じています。 (出所:パタゴニア公式サイト)
気候変動回復の鍵は「森と海と土による炭素の固定」
パタゴニア日本支社の前の社長であった辻井氏は「イケウチなひとたち。」のインタビューで、「不耕起栽培」の可能性を語っていた。
産業革命以降、人間が地中に埋まっていた炭素、つまり石油や石炭などの埋蔵化石燃料を掘り出して燃やす、ということを始めたわけじゃないですか。
そうすると、地中にあった炭素が空気中に放出された後、酸化して二酸化炭素になる。そうやって温室効果ガスの濃度が上がることで、必要以上に赤外線が地球を暖めてしまっていると言われているんです。
これを解決する方法はふたつしかなくて、ひとつは、これ以上、CO2を排出しないこと。そしてもうひとつは、すでに排出してしまったCO2をもう一度地中に固定させることです。
もともと地球はその力を持っていて、それが森と海と土なんですね。
(出所:イケウチな人たち。)
巨大農業は壊れている:「なぜ、リジェネラティブ・オーガニックなのか?」第1部
「不耕起栽培」の可能性
国内にも、「不耕起栽培」に取り組む人たちはいる。
マイナビ農業は、徳島県阿波市の「阿波ツクヨミファーム」を紹介する。代表の芝橋宏治さんにインタビューした記事で、「不耕起栽培」の可能性を知ることができる。
「自然農法を広げることで、農業のコストが限りなくゼロに近づく方が、農業が持続可能になる」と芝橋さんはいう。
「お金ではない経済の循環を作れます」
農業にかかるコストを減らしていくことは、自然の流れです。
慣行栽培は、農薬や肥料などの原料費が相当かかっていますし、機械設備の購入や人件費も莫大です。
そのコストを下げるためには、不耕起自然栽培で安定生産する仕組みが必要です。 (出所:マイナビ農業)
その「阿波ツクヨミファーム」の目標は、「農業が本当の自立をすると社会はこんなに良くなるんだということを証明することです」と公式サイトに記す。
「それは農業を再構築することで、性善説で良い社会、農産物が無料かつ持続可能な農業が『普通』にする事を目指しています」という。
まとめ
山火事の激しい炎で焼失した面積は、ついに200万エーカー(約81万ヘクタール)超え、カリフォルニアでのこれまでの記録を更新し、過去最大になったという。
山火事シーズンはあと約2か月続くとAFPが伝える。
こうした災禍を目の当たりにして、米企業は、同調圧力に屈せず、良心に従い行動するということなのだろうか。
国は成長戦略の中で、農業の効率化を目指す「スマート農業」を進めようとする。
今も食糧を手にすることのできない人たちが世界中に多くいるという現実を考えれば、それはそれで必要なことでもあろう。
国が勧める農業にも、もう少し選択肢があってもいいのかもしれない。
こうした気候変動対策に貢献する農業も進めてはどうだろうか。そんな補助金事業があってもよさそうだ。すべてを国が決めてしまうかのようなことがあってはならない。
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