ソニーが変ったようだ。10日、ソニーがオンライン形式でESG/テクノロジー説明会を開催した。ESG、とりわけ環境関連を前面に出している。もちろんテクノロジーにも触れるが、その内容に少しばかり驚く。「SONYらしい」ということなのだろうか。
(資料出所:SONY公式サイト「ESGへの取り組み」)
- ソニーの地球環境への取り組み概要
- 新たな環境中期計画「Green Management 2025」の主な目標
- 環境技術に特化したベンチャー育成~Sony Innovation Fund: Environment
- 「協生農法™」 ~壊れゆく地球環境を農業から立て直す
- まとめ
- 長い道のりだった。そして、これから
ソニーの地球環境への取り組み概要
2050年までに環境負荷をゼロにすることがソニーの目標だ。長期環境計画「Road to Zero」をもとにして2020年をゴールとする中期目標「Green Management 2020」を策定、製品の年間電力消費量削減、事業所の温室効果ガス排出量削減、再生可能エネルギーの利用拡大などに取り組んできた。
次の5年間の環境中期目標となる「Green Management 2025」を新たに策定、また同時に2035年をゴールとする気候変動目標も設定したという。この気候変動目標は科学的な根拠に基づいた「1.5℃目標」として「Science Based Targets」(SBT)に認定されたという。
そして、新たに、環境技術に特化したベンチャーを対象としたCVCコーポレートベンチャーキャピタル「Sony Innovation Fund:Environment」を創設するという。このCVCでは、環境課題の解決に役立つ技術を保有するベンチャーを探索、事業化に向けた支援を行うそうだ。
この他、長期的な視点で地球環境に貢献していくために、モビリティ、インテリジェントビジョンセンサー、REON POCKET(レオンポケット)など、分散型センシングを活用した様々な事業やテクノロジーに注力、推進していくともいう。
(資料出所:SONY公式サイト「ESGへの取り組み」)
新たな環境中期計画「Green Management 2025」の主な目標
アップルと比べてしまえば、大胆さに欠けるとの印象もあるが、確実にできることを目標にすることが「SONYらしい」ところのかもしれない。
1. 製品のプラスチック使用量の削減と省エネルギー化
新たに設計する小型製品ではプラスチック包装を全廃する。その他の製品を含めた製品1台あたりのプラスチック包装材使用量を10%削減するという。また、包装材以外のプラスチックスについては、製品1台あたりの石油由来バージンプラスチック使用量の10%削減する目標を設定、再生プラスチックの導入を加速させていく。
製品のライフサイクルにおけるGHG 温室効果ガス排出量はその大半を製品使用時が占めるため、その削減施策として、製品1台あたりの年間消費電力量5%削減を目指すという。
2. 気候変動対策、事業所での再生可能エネルギーの利用拡大へ
事業所におけるGHG温室効果ガス排出量をFY2020比5%削減、総電力使用量のうち再生可能エネルギー由来電力の使用を15%以上に引き上げる。
既に欧州の事業所では再生可能エネルギー電力100%を実現、中国の事業所でも2020年には100%を達成する見込みだという。これに続いて、北米の事業所では2030年の100%達成を目標とし、パンアジア・日本の事業所では目標達成のため、大幅に導入を加速させるという。
3. サプライチェーンとのエンゲージメント強化
原材料や部品サプライヤー、製造委託先に対し、温室効果ガス排出量の把握と削減に関する、中長期目標の設定と進捗管理を求めるという。新しい計画では、エンゲージメントも強化する。従前からあるグリーンパートナ制度をアップデートしていくのだろうか。
4. 持続可能性の課題に関する啓発活動の強化
エンタテインメント事業を中心に、全世界20億人以上に持続可能性の課題について啓発し、ソニーのエンタテインメントコンテンツなどを通じて250万人以上に参画を促していくという。
環境技術に特化したベンチャー育成~Sony Innovation Fund: Environment
ソニーのCVC第三弾となる「Sony Innovation Fund:Environment」を通して、地球環境にプラスの効果を与えるような活動を始めるという。このファンドでは、世界的な環境課題である「気候変動」、「資源」、「化学物質」、「生物多様性の改善」などに貢献する技術開発に取り組んでいる企業を対象にして、ファンド規模10億円でスタートする。
また、Sony Innovation Fund全ファンドにおいても、「ESG」を投資評価基準に加えていくという。
「協生農法™」 ~壊れゆく地球環境を農業から立て直す
新しく始めるCVCの最初の投資候補は、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)が開発している「協生農法™」のようだ。
協生農法とは、「無耕起、無施肥、無農薬、種と苗以外一切持ち込まないという制約条件の中で、植物の特性を活かして生態系を構築・制御し、生態学的最適化状態の有用植物を生産する露地作物栽培法」とソニーCSLは説明する。
(資料出所:SONY公式サイト「ソニー ESG/テクノロジー説明会」)
地球の生態系が元々持っている自己組織化能力を多面的・総合的に活用しながら有用植物を生産する農法です。食料生産だけでなく、環境や健康に与える影響までも包括的に考えられた立体 的な生態系の活用法であることが特徴的です。 (出所:ソニーCSL公式サイト)
アウトドアメーカのパタゴニアは不耕起農法を推奨し、農業によってより多くの二酸化炭素を土中に取り込もうとする。その農法によって生産されるコットンや作物を素材にしてビジネスを展開する。
耕さない環境再生型有機農業から生まれるパタゴニアのオーガニックな食べ物たち - Up Cycle Circular’s diary
アップルは2030年までに「カーボン・ニュートラル」を目指し、世界中の森林や湿地、草原を保護、回復を支援して、大気中から過剰な二酸化炭素を取り除いていくと公表した。
アップル 2030年のカーボンニュートラルを宣言 自然回復プログラム始まる - Up Cycle Circular’s diary
そして、ソニーも自然回復を図る農業で新たなビジネスを目論む。
六本木ヒルズ屋上庭園が都市の生態系回復の実験場
ソニーCSLは 昨年11月、六本木ヒルズの屋上庭園で、この「協生農法™」の実証実験を始めたという。
六本木ヒルズけやき坂コンプレックスの屋上庭園に、3パターンの異なる土壌を用意した特別なプランター5個を設置。
プランターには、野菜・果樹を中⼼に周囲に100種に上る植物種を配置し、⽣育状態の変化を観察します。
プランター以外にも六本木ヒルズの屋上庭園の土壌に直に植えた露地栽培型には200種ほどの有用植物を配置します。 (出所:ソニーCSL)
(資料出所:ソニーCSL「六本木ヒルズで協生農法に関する実証実験を開始 循環する生態系ネットワークの都市への実装を推進」)
まとめ
ソニーは、存在意義、Purposeを「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」とした。そして、経営の方向性を「人に近づく」と定義する。
今回の「ESG/テクノロジー説明会」では、「人」を軸とした社会や地球環境への貢献、それらを実現に導くための「テクノロジーへの取り組み」を説明した。
(資料出所:SONY公式サイト「ソニー ESG/テクノロジー説明会」)
「持続可能な社会の実現に向け、テクノロジーで貢献する」
それは、高機能低消費電力SoCやAIツールなど様々なテクノロジーを活用、地球環境を見守る(センシングする)ことで、「人と人」の共存だけでなく、「人を取り巻く環境と人」の共存を実現していくことだという。
そして、そこにはもうひとつ、「多様性」ダイバーシティというキーワードもあるようだ。
(資料出所:SONY公式サイト「ソニー ESG/テクノロジー説明会」)
インドと中国・深圳に新たに研究開発拠点を立ち上げ、ダイバーシティとグローバル化を意識した体制の構築を進めているという。
この他にも、新たに宇宙エンタテインメントを創出していくことを目指して、JAXA(宇宙航空研究開発機構)他と協働し人工衛星の共同開発を始めたそうだ。
ソニーが電気自動車EVの試作車「Vision-S」を作って驚かされた。この先、EV社会が実現するなら貢献できる領域が広がるのかもしれない。
(資料出所:SONY公式サイト「ソニー ESG/テクノロジー説明会」)
長い道のりだった。そして、これから
長くテレビ事業の不振に喘ぎ、幾度となくリストラ、構造改革を断行してきたが、ようやくその改革が花開いたということであろうか。
アップルやIBMなど、名だたる世界的な電機メーカも改革を通して全く新たな会社に変わり、今日の業界のリーダーになった。
ソニーの発表をみて、そんなことを思い出した。中途で合流したとき、「グローバル企業と思うかもしれないが、ソニーは典型的な日本企業だから注意するように」と言われた。そうした亡霊も取り除くこともできたのだろうか。
ソニーは変ったと思う。
久々に、あまりごちゃごちゃと文言を書かないSONYらしいプレゼン資料との感じがした。慣れ親しんでいたからかもしれないが、わかりやすい発表内容だ。
破壊されつつある地球環境が少しづつ回復していくのかもしれない。変わり始めた、SONYらしいソニーをうれしく思う。
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