日経平均株価が3万円を回復した。30年半ぶりのことだという。
ブルームバーグによれば、景気期待や業績改善、輸出や金融が主導しているという。理屈はわかるが、このコロナ渦にあって世にも不思議なこととも感じてしまう。
取引開始前に公表された2020年10-12月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率で12.7%増と、市場予想(10.1%増)を上回った。
日興アセットのベイル氏は「企業がリモートワーク機能の構築とハイテク製造能力の拡大に資金を費やしたため、民間設備投資は非常に強力だった」と分析。
1-3月期のGDPは市場予想で再びマイナス成長が見込まれているが、海外需要の強さなどを背景として「GDPには今後改善の余地が多くある」としていた。 (出所:ブルームバーグ)
「過去10年間の株式市場の姿が合理的なバリュエーションや利益の改善、配当の急増による株主還元の進展により、株式市場の本当の姿に近いということに気づいたからだ」と評価する日興アセットマネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、ジョン・ベイル氏の言葉を紹介する。
棄損していた株式市場が適正化したということであろうか。ESGの成果なのだろうか。
広がる格差
「富める階層をさらに富裕化させて、その波及効果を所得の低い人たちに波及させるのか」とロイターは疑問を投げかける。
政府・日銀内では、富裕層の使い残したマネーが預金として積み上がっているとの見方が広がっているようだとロイターは指摘する。
「待機マネー」の受け皿を作ることで、円滑に景気全般への波及が実現するように意図した政策が「Go To」だと言えるだろうという。
仮に新型コロナ用のワクチン接種が順調に進んだ場合、待機資金として積み上がっているマネーが、今年後半か来年初めにかけて旅行や飲食、その他の接触型サービスに流れ込み、「過熱感」すら伴って消費拡大へと突き進むシナリオだ。 (出所:ロイター)
さらに、一部の金融機関が、今後のサービス関連の需要のⅤ字回復と関連企業の業績回復を予想しているのも、あながち「ポジショントーク」とばかりは言えない側面を持っていると言えるという。
一方、コロナ禍の影の暗さは、時の経過とともに深刻さを増しているという。
失業者が増加し、非正規雇用者の人数が減少し、雇用の現場で女性の解雇が多くなっていると指摘する。
このような一部の階層の富裕化と失業による貧困化が、大規模にかつ同時並行的に発生するという社会現象は、戦後の日本で初めて経験することではないか。言い換えると、富裕化と貧困化の二極構造が、かつてないほどに進行中ということだ。 (出所:ロイター)
この指摘を鑑みれば、まだまだESGの「S(社会)」が改善しているとは言い難いのではないか。
上り調子の株価に「S」が犠牲になってもいいのだろうかと感じるばかりである。
「Go To」待ちではお寒い話ではないか。ロイターが指摘するように、それで、この国の成長力を取り戻していくことはできるのだろうか。
転んでもただでは起きないトヨタ
トヨタが先日、今期の業績予想を発表した。自動車販売の増加に加えてお家芸のコスト削減も奏功して営業利益は2兆円の大台を回復する見通しとブルームバーグが伝える。
新型コロナウイルスの影響や世界的な半導体不足により販売や生産に打撃を受ける企業も多い中、同社の力強さが際立つ格好となったと指摘する。
業績回復については「当たり前のことを当たり前のこととして一生懸命頑張った成果」と指摘。
一例として感染拡大の影響で工場の生産が止まる中でも、現場で原価改善の取り組みを継続したことなどにより、稼働が戻ってきたときには固定費が低い状態で高稼働を続けることができたと述べた。 (出所:ブルームバーグ)
「文字通り災い転じて福となす、転んでもただでは起きない」をトヨタは実践しているとブルームバーグは指摘する。
「普段からちゃんとやっている研究開発、商品開発がこういったときにも花を咲かせてくれる」ともいう。
そのトヨタは国内生産300万台体制の維持にこだわる。この苦境下でも、いち早く業績回復させることができれば、雇用機会は守られる。
昨年5月、豊田社長は会見でこんなことを語っていた。
今の世の中、「V字回復」ということがもてはやされる傾向があるような気がしております。
雇用を犠牲にして、国内でのモノづくりを犠牲にして、いろいろなことを「やめること」によって、個社の業績を回復させる。それが批判されるのではなく、むしろ評価されることが往々にしてあるような気がしてなりません。
「それは違う」と私は思います。
企業規模の大小に関係なく、どんなに苦しい時でも、いや、苦しい時こそ、歯を食いしばって、技術と技能を有した人財を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんあります。 (出所:トヨタ プレスリリース)
有言実行ということであろうか。
業績回復のためか、資生堂が進めるDXはコンサルが主導
新型コロナによる小売店の臨時休業や訪日外国人減少の影響を受け、化粧品大手の資生堂が赤字に陥った。その資生堂はパーソナルケア事業をCVCに譲渡し、経営改革を進める。
資生堂によれば、アクセンチュア㈱との戦略的パートナーシップによりDXデジタルトランスフォーメーションを加速させ、取引先小売店とも連携しながら、オンラインとオフラインを融合した体験を提供する新事業モデルへの転換を推進するという。
世界約120の国と地域でビジネスを展開する資生堂グループ全体で、業務推進上のプロセス、システム、データの標準化、統一化によって業務プロセスの高度化および効率化を図ります。
グループ全体でクラウドベースの単一の情報システムを構築することで、全世界共通の経営情報やデータの見える化、決算の早期化、在庫管理の高度化、グローバル需給管理といったデジタル変革の実現に不可欠な基幹業務プロセスの刷新を目指します。 (出所:資生堂)
資生堂の経営改革に少しばかり興味を覚える。こうしたことを公表するということは不退転の決意ということなのだろうか。
コンサルティングファーム主導の改革は、どこまで成果をあげることができるのだろうか。
コロナ渦の日経平均3万円、期待先行ということなのだろう。散々叫ばれてきた「ESG」が確かなものであれば、新たな雇用機会も生まれるのだろう。
上り調子に「ESG」や語られてきたステークホルダー資本主義を忘れるようであれば、株主第一主義への回帰と言われかねない。それでは元の木阿弥、何もよくなることはない。
期待先行の株価、期待を裏切ってはならないはずだ。