中国新疆ウイグル自治区などでウイグル族に対する強制労働に関与が疑われていた国内企業12社が、関与が確認された中国企業との取引を停止する方針を固めたと共同通信が報じた。
この内容をブルームバーグが補足説明する。
(出所:ブルームバーグ)
- 同12社には衣料品チェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングやソニー、日立製作所などが含まれる。詳細の全容は明らかにされていない
- 米英両国が綿製品などの輸入規制に相次いで踏み切り、日本企業も対応を迫られていた
- サプライチェーンで新疆関連企業とつながる日本企業に取引自制の動きが広がる可能性がある
- オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が昨年公表した報告書でウイグル人の強制労働に関与した疑いがあると指摘された日本企業14社に対し共同通信は問い合わせを行った
- 「無印良品」ブランドを展開する良品計画は、米政府が禁輸対象とする中国企業ないしはこれら企業の親会社と取引があると判明した日本企業3社のうちの1社
- 良品計画は「新疆綿」を商品名の一部に使用した商品を同社のウェブサイト上で販売していたが、これらは共同の調査後に削除された
国内12社とは
昨年報じられ、気にはなっていたが、あまり仔細にはチェックしなかった。まずは、ASPI オーストラリア戦略政策研究所が昨年公表した報告書から確認してみた。
指摘を受けた国内企業は、「ファーストリテイリング 」、「TDK」、「三菱電機」、「ソニー」、「日立製作所」、「ジャパンディスプレイ」、「ミツミ電機」、「任天堂」、「シャープ」、「東芝」、「パナソニック」と「良品計画」の12社。
昨年8月には、HRN 国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」が、国内企業が間接的に関与している可能性があるとして、ASPIが指摘した国内企業12社に対して、早急な対応をもとめる報告書を発表した。
HRNは、「良品計画」については調査対象外とした。
その理由は、問題視された「新疆綿」が、国際労働機関(ILO)が定める、強制労働を含む労働条件の順守を条件とするオーガニック国際認証を取得したものであることによるという。
深層見えず
電機会社に勤め、調達の仕事をしていた身からすると、この問題の対応の難しさを感じる。
勤めていた会社はブランドを何よりも大切にしていた。ブランドイメージを棄損するようなことはご法度であり、コンプライアンス違反などは絶対に許されない行為であった。そのために内規があり、各種方針やガイドラインが設けられている。
このケースでいえば、報道があった時点でアクションが始まり、対応があったと推測される。在籍時にこの報道があったら、間違いなくそうしていただろう。
しかし、会社の顔となる広報は、この問題に関しては積極的に情報発信しないだろう。それほどに難しい問題だ。真相を捕まえることが極めて困難な問題であるし、まして、このコロナ渦、そして、中国当局にとってきわめてセンシティブな問題、現地確認などまともに進めることはできないだろう。
この問題に対する米アップルの対応が報道されている。推測になるが、どの企業も同じような対応になっているのではなかろうか。
サプライヤリストからの除外
iPhone12シリーズのカメラモジュールを供給していた中国O-Filmが、アップルのサプライヤーリストから除外されたと、iPhoneManiaが昨年12月に伝えた。
O-FilmはASPIでウイグル族の強制労働が指摘された中国企業。ASPIの報告書によれば、アップルの他、PCメーカ、スマホメーカが取引メーカにあがる。国内企業ではソニーの名がある。
昨日のiPhoneManiaによれば、アップルはO-Filmに発注されていた約10%台後半のアロケーションを、LG InnoTekとシャープが振り分ける見込みだという。
Foxconn 進む中国からの生産移管
「2019年9月の地方自治体の文書によると、560人の新疆ウイグル自治区の労働者がFoxconn Technologyの鄭州施設を含む河南省中央部の工場で働くように移された」とASPIの報告書は指摘する。
「Foxconnは、アップル、デル、ソニーのデバイスを製造する世界最大のEMS。 鄭州の施設は、世界のiPhoneの半分を製造していると報告されており、鄭州市が「iPhone市」と呼ばれる理由」とその報告書は説明する。
一方、Gigazineは、「Appleは、デバイスの生産拠点を中国以外の国へ移転する取り組みを続けており、2019年7月にはインドで生産されたiPhoneの輸出を開始し、2020年には「AirPods Pro」の生産拠点の一部をベトナムに移転したことが明らかになっています」という。
そして、Appleが、2021年中にベトナムで「iPad」の生産を開始することが報じられているという。
Appleを含む大手テクノロジー企業は、デバイスの生産拠点を中国に設置していました。
しかし、米中の貿易摩擦によって中国からアメリカへ輸入する製品に多額の関税がかかるようになったことや、中国の人件費が上昇していること、新型コロナウイルスの感染拡大といった要因が重なったことで、デバイスの生産を1つの国に依存しすぎることのリスクが浮き彫りとなり、中国以外の国への生産拠点の移転がテクノロジー業界のトレンドとなりました。 (出所:Gigazine)
中国市場向けiPhoneを除けば、他国へ生産移管するのが順当な流れのだろう。
ただ急激に変化させることはできない。徐々に移管が進み、ウイグル問題の希薄化も進んでいくのだろう。ウイグル問題ではなく、別な名目を理由にして生産拠点の移管は進められていくのだろう。
アップルのロビー活動
「Appleがロビー活動を通し、新疆ウイグル自治区での強制労働を抑止するための米法案の弱体化を試みていたとするスクープが飛び出した」とiPhoneManiaが伝える。
人権尊重に取り組んできた品行方正なイメージとは裏腹の“やり手”な一面を、米メディアWashington Postが報じています。 (出所:iPhoneMania)
Foxconnのように、現状どうしても中国生産に頼らざるを得ないところがある。今の今、対象となる取引先にこの問題の対応をもとめたところで守られる確約、保証は取れないだろう。
当局絡みのセンシティブな問題。中国現地では、表向きこの問題は存在しないのだろう。語るのもご法度ではなかろうか。その理解を得るためにロビー活動をしているのではないのであろうか。
困難さ コンプライアンスの矛盾
中国当局が真っ向から否定しているのだから、この問題の真相究明には困難さが伴うは容易に想像できる。おそらく、現地での調査はままにならないだろう。
現地では、ウイグルという言葉を使った調査では誰の協力も得られないかもしれない。この問題をあからさまにすることは、当局と対立することを意味する。
たとえアップルであっても、一企業で対応できることには限界がある。グレーなところはグレーなままにしておくしかない、それが本音ではなかろうか。
コンプライアンス、中国でビジネスを行なう以上、中国現地で守らなければならない法令がある。それを逸脱したらコンプライアンス違反になる。
コンプライアンスの矛盾、対応が難しいところだ。
人権団体が指摘したら、メーカが対応する。そんなモグラたたきがしばらく続くのだろう。
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