科学誌サイエンスに、プラごみ問題の論文「Evaluating scenarios toward zero plastic pollution (プラスチック汚染ゼロに向けたシナリオの評価)」が掲載された。
- プラスチックスに溺れる
- プラスチック問題については、「特効薬」はない
- 「燃やすか捨てるしかないの選択肢しかない」という現実
- 東京都の「廃プラスチック処理状況」
- 東京都が進めるワンウェイ(使い捨て)プラスチックの削減活動
プラスチックスに溺れる
その内容を英BBCが伝える。
「世界規模での対策が講じられない限り、2040年までに、陸上と海洋の両方で、推定13億トンのプラスチックが存在することになる」
BBCによれば、研究者らが「通常通りのビジネス」と呼ぶシナリオでは、現在の傾向を基にすると、13億トンの見積もり結果になったという。
彼らの「リサイクルを増やし、生産を減らし、プラスチックを他の利用可能な材料で置き換える」シナリオでは、「海洋に入るプラスチックの量を2040年までに80%削減することができる」という。
こうした結果をもとに、研究者ら次のステップを求める。
・プラスチックの生産と消費の成長を抑える
・プラスチックを紙や堆肥化可能な材料で置き換える
・リサイクルのための製品と包装の設計
・中低所得国における廃棄物収集率の拡大と「非公式収集」セクターの支援
・経過措置として、経済的にリサイクルできないプラスチックの23%を処分する施設を建設する
・プラスチック廃棄物の輸出を減らす (出所:BBC)
しかし、すべての行動がとられたとしても、今後20年間で、地球環境に新たに7億1千万トンものプラスチック廃棄物が排出されるという。
プラスチック問題については、「特効薬」はない
BBCは、この論文が、コロナパンデミックの最中に発表されたことを皮肉だといい、マンチェスター大学出身のある教授の言葉を紹介する
「プラスチックスは、多くの第一線で働く医療従事者の安全を保った」
「しかし、今後10年間の医療防護具PPEの廃棄物は恐ろしいものになる可能性がある」
「燃やすか捨てるしかないの選択肢しかない」という現実
BBCによれば、この研究では、しばしば見落とされがちな問題をハイライトしているという。
それは、グローバルサウスと呼ばれる南半球に位置する開発途上国の推定20億人が、適切に廃棄物処理にアクセスできず、「燃やすか捨てるしかないの選択肢しかない」という事実、それに加え約1,100万人の廃棄物ピッカー(低所得国で再利用可能な素材を収集して販売する人々)は、基本的な雇用権と安全な労働条件を欠いた環境で働ている。
「彼ら廃棄物ピッカーをサポートし、彼らの仕事をより安全にするための政策は、この問題を解決するための重要な部分である」とBBCは研究者の言葉を紹介する。
SDGsが求めていることにも一致するように思う。
東京都の「廃プラスチック処理状況」
東京都は、定期的に「廃プラスチック処理状況に関する調査」の結果を公表している。
最新の結果報告は、調査期間が2019年7月~2020年3月までのもので、廃プラ処理に関わる事業者46社などからヒアリングしている。こうした関係者へのヒアリングを通じて廃プラスチック市場の問題点を把握することを目的にしているという。
(資料出所:東京都環境公社公式サイト「廃プラスチック処理状況に関する調査報告書(概要)」)
廃プラ処理に関わる事業者の声
破砕、選別などを行う産廃中間処理では、受入量増加の要請が多数あり、各業種でひっ迫した状況にあるという。排出者に分別を求める声が多数上がっているとも報告する。
焼却処分する産廃中間処理業者では、稼働率がほぼ100%になっており、関東圏の焼却施設では受入余剰がないという。混廃に含まれる廃プラの割合が増加し、焼却処理の需要も増加、また、異物混入がある場合は、排出事業者に返却しているという。
埋立処分を行う産廃最終処分業者では、受入量増大により残余年数が減少、容量が逼迫し、処分料金を大幅に値上げしているという(東西で地域差あり)。また、混廃に含まれる廃プラ搬入量も増加しているという。
こうした調査結果を今後の方向性の検討ということでとりまとめている。
「従来は輸出されていた中品位の廃プラから国内処理の受入が進み、低品位の廃プラの処理が逼迫、 埋立・焼却に回る可能性大。不法投棄等も懸念される」。
廃プラ緊急対策(当面の方向性)
〇 これまでは輸出していた廃プラの国内資源循環を考えることが必要。
〇 まずは分別・再利用(材料リサイクル)が第一義。
埋立・焼却に依存せず、材料リサイクル、ケミカルリサイクル、熱回収の優先順位に留意しつつ、廃プラの受入量を増やすための施策が必要。
・材料リサイクルしやすい製品の開発(メーカーとリサイクラーが連携した製品開発)を促進するための施策が必要
・材料リサイクル、ケミカルリサイクルでの利用は困難でも、破砕・選別の質を高めることで、産業用原燃料としての活用余地もある
・熱回収の中でも、石炭代替として工場等で廃プラを活用する場合と、焼却施設において廃棄物発電を行う場合など、環境負荷の大きさに応じた、優先順位付けも必要
・焼却困難物対策(グラスウール、カーボン樹脂、金属と樹脂の複合部品等)や産業用原燃料や廃棄物焼却施設でも受け入れが困難な塩素分の高い廃プラについての対策も考えることが必要
(出所:東京都環境公社公式サイト「廃プラスチック処理状況に関する調査報告書」)
今回の調査結果には、コロナの影響がどれだけ含まれているのだろうか。
次回調査報告では、コロナで増えるであろう廃プラの影響が反映されることになるのであろうから、要注意で確認していきたい。
東京都が進めるワンウェイ(使い捨て)プラスチックの削減活動
こうした現実があるからだろうか、東京都は、「持続可能な資源利用」を進めるため、ワンウェイ(使い捨て)プラスチックの削減に係る取組を推進している。
昨年、東京都の補助事業に、「リユース容器を利用した商品提供プラットフォーム(Loop)」を採択し、今年2月に事業終了したことに合わせ、その活動結果を報告書にまとめ、5月に公表した。
この報告書を元に改めて「Loop」を確認してみる。
Loopの事業内容
Loop という通信販売プラットフォーム上では、商品は全て使い捨て容器包装を廃し、リユース可能な耐久性が高い容器にて提供される。当社(Loop)では商品の販売配達、空容器の回収洗浄、及びプラットフォーム全体のインフラ運営を担う。
各商品メーカーは商品の充填を行い、当社に商品を卸す位置付けとなる。
消費者は Loop のウェブサイト、またはメーカーの Loop 専用ページより商品の購入が可能となり、将来的には小売店と連携しての商品販売も視野に入れている。
購入された商品は Loop 専用のバッグ(リユース前提)にて梱包及び配達され、同じバッグに使い終わった容器は入れられ、回収される。回収された容器は形状や商品毎に分けられ、殺菌洗浄された後に再度充填のため、メーカーへ送られる。
日本では、2020 年 10 月を目標として東京都を検証テストエリアとして展開する。
(出所:東京都公式サイト「プラスチックの持続可能な利用に向けた新たなビジネスモデル事業報告書」)
(資料出所:東京都公式サイト「プラスチックの持続可能な利用に向けた新たなビジネスモデル事業報告書」)
Loop参加企業
本年度中に通信販売モデルとして、公式ウェブサイトを立上げ、 5000 世帯を対象としたサービスを始めるという。また、同時並行で、Loopのパートナー企業であるイオンの東京都内の店舗で検証テストを始める。
(資料出所:東京都公式サイト「プラスチックの持続可能な利用に向けた新たなビジネスモデル事業報告書」)
2019 年 12 月時点でLoopに参加を表明している企業は、イオン、味の素、資生堂、キリンビール、サントリー食品、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、ロッテ、 I-ne、江崎グリコ、キャノン、ユニ・チャーム、キッコーマン、大塚製薬、エステーなど。その他メーカーとも商談も進め、参画企業が増えるという。
(資料出所:東京都公式サイト「プラスチックの持続可能な利用に向けた新たなビジネスモデル事業報告書」)
今後の課題と展望
東京都の補助事業で、準備が整いつつあるということであろうか。
この報告書では、課題として、「消費者の理解」と「回収ネットワークの構築」を上げる。
容器回収のしくみとしては、実際に展開するイオン店舗や通信販売での回収だけではなく、行政やオフィスビル、不動産管理会社等と連携し、店舗で購入したお客様が使用した容器を気軽かつ簡単に返却しやすいネットワークを構築していくという。
「社会全体に「捨てるという概念を捨てよう」を浸透させていくことが地球環境にとって危機的なごみ問題の解決につながっていく」
という言葉で、Loopはこの報告書を結んだ。
もう少しLoopと同種の会社が増えて欲しいものだ。競合他社が増えれば、価格面でもメリットが生まれ、さらに扱い高が増えれば、社会全体のごみの量が少し減るのかもしれない。