日本政府が、このところ立て続けに、ASEANやAPEC、G20など国際会議の場で「2050年のカーボンニュートラル実現」について説明している。
こうした表明の方が世界的には理解されやすいのかもしれない。朝日新聞は、G20での首相の発言を、自らの「国際公約」とした形だと指摘する。国際社会に日本政府の「コミットメント」として受け止められたということなのかもしれない。
日本政府によると、菅首相は、日本は温室効果ガスの排出を50年までに実質ゼロとし、脱炭素社会を実現すると宣言。
積極的な温暖化対策は経済の変革、成長にもつながるとして、経済と環境の好循環を成長戦略の柱に掲げ、「グリーン社会」の実現に向けて努力すると述べたという。 (出所:朝日新聞)
朝日新聞によれば、世界の約120カ国が「50年実質ゼロ」を掲げ、G7主要7カ国の中で「実質ゼロ」を表明していないのは日本と米国のみだったという。米国のバイデン次期大統領も大統領選で公約に掲げていることより、気候変動対策により一層の弾みがつくのだろうか。
この他、政府はG20で、新たな海洋プラスチック汚染についても「50年までにゼロを目指す」と表明したという。
「将来の世代が引き続き、豊かな海洋資源を享受できるよう積極的に貢献していく」とし、途上国への技術支援に取り組む考えを強調したそうだ。
環境NGOから批判された「大阪ブルーオーシャンビジョン」
昨年大阪で開催されたG20では、「大阪ブルーオーシャンビジョン」をまとめ、「海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す」ということを大阪G20の首脳宣言の中に盛り込んだ。
日本政府は、その上で、「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げ、途上国の廃棄物管理に関する能力構築とインフラ整備等を支援していくと表明した。しかし、直後には環境NGOなどから、不十分だとする批判の声が上がったという。
今回のG20で改めて、「新たな海洋プラスチック汚染のゼロ」を表明した形だ。
「大阪ブルーオーシャンビジョン」で一見、国際的にリーダーシップを発揮したように見えても、まず自ら「ゼロ」にするとのコミットメントを表明しなければ、誰も積極的に協力しようとは思わないかもしれない。
今回、一連の国際会議で政府がコミットメントと受け取れる発言したことは意味があったのかもしれない。
G20でのビデオメッセージでは、「各国と協力し、脱炭素社会の実現のため国際社会を主導していく」との内容を発信した。先のASEAN 東南アジア諸国連合各国首脳とのテレビ会議で発言した「アジア各国の事情に即した現実的で持続可能な脱炭素化の取り組みを支援する」との内容とも符合する。
こうした表明があって、関係各国と調整しインボルブ、国際的なイニシアティブに発展させることの方が実行性のある活動を作り上げることができるのかもしれない。先の「大阪ブルーオーシャンビジョン」をアップデート、より現実な宣言として、国際協力につなげて欲しいものだ。
政府のSDGsアクションプランを改定してみてはどうだろうか
政府は昨年末、SDGs実施指針改定版を発行した。その改定内容を、日本経済新聞は「あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現」、「生物多様性、森林、海洋等の環境の保全」などを優先して取り組むべき課題にあげたという。
そうであるにもかかわらず、政府のアクションプランは、従来通り、三本柱からなる日本の「SDGs モデル」を推進していくのままだった。
「ビジネスとイノベーション~SDGs と連動する「Society5.0」の推進~」
「SDGs を原動力とした地方創生」
「SDGs の担い手として次世代・女性のエンパワーメント」
(資料:首相官邸公式ページ「SDGsアクションプラン2020~2030年の目標達成に向けた「行動の10年」の始まり~」SDGs推進本部)
(People 人間)
1 あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
2 健康・長寿の達成
(Prosperity 繁栄)
4 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
(Planet 地球)
5 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
(Peace 平和)
7 平和と安全・安心社会の実現
(Partnership パートナーシップ)
8 SDGs 実施推進の体制と手段
SDGsの認知度を向上させようと様々な施策が実施されるが、なかなかその成果が表れていないと聞く。
政府が開示する資料を読み込めば、それなりにプランに従い実行しているようにも見える。が、もしかしたら、政府が示す「アクションプラン」がどこか、日々の生活や日常からかけ離れ過ぎているからなのかもしれない。
政権が代わり、新たに2050年の脱炭素社会の実現の方針が示された。これまでの実施指針の内容と違える内容ではないのだろう。政府SDGsアクションプランを、こうした方針や指針に沿う形にアップデートする必要がありそうだ。
今から30年後の世界を想像することは難しいことなのかもしれない。ただ、温暖化が進行し、世界のあちらこちらで水没する場所が増え、世界の地形が変化している、そんなことは想像したくない。スーパー台風が頻発し、列島のあちこちで経験したことのないような被害が続発する、そんな未来も想像したくない。
SDGsが目標とするゴールは10年後の2030年だ。もう少しクリアに想像できそうな気がする。できそうにもない突飛すぎることを目標にするのでなく、足元にある問題を解決していことで達成できる目標に置き換えていく必要があるように感じる。
日本の持続可能性は世界の持続可能性と密接不可分であることを前提として、引き続き、世界のロールモデルとなり、世界に日本の「SDGs モデル」を発信しつつ、国内実施、国際協力の両面において、世界を、誰一人取り残されることのない持続可能なものに変革し、2030年までに、国内外において SDGs を達成することを目指す。
すべての人々が恐怖や欠乏から解放され、尊厳を持って生きる自由を確保し、レジリエンス、多様性と寛容性を備え、環境に配慮し、豊かで活力があり、格差が固定化しない、誰一人取り残さない 2030 年の社会を目指す。
上記ビジョンの達成及び日本の「SDGs モデル」の確立に向けた取組の柱として次の 8 分野の優先課題を掲げることとする。SDGs のゴールとターゲットのうち、日本として特に注力すべきものを示すべく、日本の文脈に即して再構成したものであり、すべての優先課題について国内実施と国際協力の両面が含まれる。
また、これらの優先課題はそれぞれ、2030 アジェンダに掲げられている 5 つの P(People(人間)、 Planet(地球)、 Prosperity(繁栄)、 Peace(平和)、 Partnership(パートナーシップ))に対応する分類となっている。SDGs におけるすべてのゴールとターゲットが不可分であり統合された形で取り組むことが求められているのと同様、これらの 8 つの優先課題も密接に関わる不可分の課題であり、どれ一つが欠けてもビジョンは達成されないという認識の下、その全てに統合的な形で取り組む。(出所:SDGs 実施指針改定版(SDGs推進本部))
「関連文書」
「参考文書」