Up Cycle Circular’s diary

未来はすべて次なる世代のためにある

【低炭素社会とお金】 世界最大の資産運用する「ブロックロック」のサーキュラー・エコノミー戦略

  

 著名な投資家ウォーレンバフェットが天然ガスの輸送・貯蔵事業を展開する企業を買収したという。日本国内ばかりでなく、世界各地で自然災害が頻発するようになり、気候危機といわれるようになった。そんな時に、天然ガス会社に投資する意味はあるのだろうか。

 大手の原油生産者が投資を縮小し、足元で原油掘削活動が鈍化に転じてきたのに伴って、天然ガス供給も抑えられている。

確かに、天然ガスには太陽光や風力のような将来の成長余地はないが、他の化石燃料に比べれば温室効果ガス排出量は少ないので、中期的な見通しは相対的に明るい

例えばエネルギー源としては、石炭を代替する役目を果たし続けるだろう。内燃自動車から電気自動車(EV)への移行が原油にもたらすような需要の落ち込みにも直面しない。

だから米最大のパイプライン運営会社ウィリアムズ・カンパニーズは、2040年までの天然ガス需要は、原油の3倍のスピードで伸びるとみている (出所:ロイター)

 

 石炭や石油の消費が確実に減少し、再生可能エネルギーへ移行していく期間に必要なエネルギー源が天然ガスになるだろうとの読みのなのだろうか。  一足飛びに100%再生可能エネルギーに転換することは出来ない、現実的な見方なのかもしれない。

 

jp.mobile.reuters.com

 

 

 

歴史的な転換か、米ブラックロックの「CEO書簡」

 今年1月、世界最大の資産運用会社 米ブラックロックのCEOラリー・フィンク氏が出した「CEO書簡」が、ビジネス界を震撼させた。

 「気候リスクは投資リスク」と言及し、

「各国政府、企業、株主の一人ひとりが、気候変動に関する課題に取り組む必要がある」と表明した。

 

サステナビリティ」に関連する投資リスクが増大する中、情報開示に関する対話等を通じた従前からの啓発活動を踏まえ、

投資先企業が「サステナビリティ」に関連した情報開示、その根本となる事業活動や計画において十分な進展を示せない場合には、経営陣と取締役に対して、反対票を投じることについて、より積極的に検討します。 (出所:ブラックロック公式サイト)

 

www.blackrock.com

 

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(写真出所:World Economic Forum | Flickr

 

英石油メジャー BP 低炭素社会への移行を予測

 6月、石油メジャー英BPが、向こう数十年間の石油・ガス価格予想を20~30%引き下げ、二酸化炭素の排出にかかるコストも以前の想定値から2倍以上に増大する見通しと発表し、第2四半期に最大175億ドル(約1兆8800億円)の減損損失を計上したという。

 BPはこの発表で、こう言及したそうだ。

「新型コロナのパンデミックが世界経済に及ぼした影響は長期化し、エネルギーへの弱い需要が長期にわたる可能性があるとみている」とし、「パンデミック後の余波として、低炭素経済への移行が加速するだろう」 (出所:ブルームバーグ

 

www.bloomberg.co.jp

 

 BPの石油価格見直しには、 ブラックロックがBPの監査委員会に働きかけをしたとも聞く。

 

 BPのこの動きを、大手ファンド20社からなる投資家グループが評価したと ロイターが報じる。

 「クリーンエネルギーへの移行が世界的に進む中、すべての企業経営者と株主は、会社のどこが過大評価されているかを直ちに見直す必要がある」と、ロイターのインタビューにあるファンド担当責任者が答えたという。

 さらに、ロイターは大手ファンドの動きをこう伝える。 

投資家グループはすでに、建材大手のCRHに対するロビー活動を開始。鉄鋼原料を供給する資源大手リオ・ティントにも書簡を送付する計画だ。

セメントと鉄鋼は温室効果ガスの大きな発生源となっている。

あるファンドの責任者はロイターとのインタビューで「化石燃料への依存度が高い他の企業にも同様の働き掛けを進めていく」と発言。

化石燃料プロジェクトに融資を行っている欧米の銀行も対象にする方針という。

同投資家グループは昨年以降、4大監査法人(EY、デロイト、KPMG、PwC)に対し、気候変動の関連リスクを見過ごさず早急に行動するよう求める書簡を送付している。 (出所:ロイター)

 

jp.reuters.com

 

国内にも変化の兆し? 産業界で始まる「脱炭素」

 こうした投資家グループの活動が、日本の石炭政策にも影響を与えたのだろうか。 

 4月、みずほFGは、「サステナビリティへの取り組み強化について ~脱炭素社会実現に向けたアクション強化~」を公表し、石炭火力発電への融資方針を変更した。

 6月、経団連は、「チャレンジ・ゼロ」を発表し、排出量の大きい鉄鋼業界が2050年をめどに、石炭を使わず水素を利用した製鉄技術を開発する目標を掲げたことを紹介した。 

 

dsupplying.hatenablog.com

 

 

  

サステナビリティ」 ブラックロックの新たな投資基軸

  米ブラックロックは、「サステナビリティブラックロックの投資の新たな基軸に」というクライアント向けの書簡で、低炭素社会への移行において、受動的な傍観者となることはないと表明している。

 

低炭素社会への移行は着実に進んでいますが、技術的および経済的な現実を踏まえると、この移行には数十年を要すると考えられます。

低炭素社会への移行を成功させるためには、弊社が一貫して支持する炭素価格制度の全世界的な導入を含め、パリ協定で掲げられた目標に沿った各国政府の協調による国際的な対応が不可欠です。

低炭素社会への移行を加速するうえで、企業と投資家は重要な役割を果たします。 (出所:ブロックロック公式サイト)

 

www.blackrock.com

  

 ブラックロックのサーキュラー・エコノミー・ファンド

 経済産業省が、「サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環ファイナンス研究会」で、ブラックロックのサーキュラー・エコノミーの取り組みを紹介する。 

 経産省によれば、2019年10月、ブラックロックは英エレンマッカーサー財団とサーキュラー・エコノミー・ファンドを立ち上げたという。

 

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(資料出所:経済産業省公式サイト「サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の取組について」

 

 このファンドの中では、アディダスを投資対象とし選定している。

 「リサイクルされた/可能な材料の使用、革新的な製品回収や再販ソリューションへの投資、を明確に表明している企業」ということが理由のようだ。

   

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ステークホルダー資本主義 市民のニーズがファンドを動かす

 ここ最近、ESG投資が急拡大しているといわれるようになった。ファンドの動きがそれを後押しているのだろうか。 

 少々長くなるが、ブラックロック ラリー・フィンクCEOの書簡の一部を引用する。

企業が様々なサステナビリティ課題に対してどのような対応をしているかについて、全ての投資家ならびに規制当局、保険会社、ひいては一般市民が、より明確に把握するニーズがあると考えています。

それを可能とする情報については気候変動に関する情報にとどまらず、例えば従業員のダイバーシティサプライチェーンサステナビリティ、顧客の個人データ保護など、あらゆるステークホルダーに対する企業の対応に関する情報を対象とすべきです。

企業の成長見通しは、その企業がいかにサステナブルな形で事業を運営しているか、いかにすべてのステークホルダーに貢献しているか、という点と切り離して考えることはできません。

ステークホルダーへの対応と企業理念の実践は、企業が社会における自身の役割を理解する手段として、より一層重要になっています。

過去の書簡で言及した通り、企業は、企業理念を持たずして、また広範にわたるステークホルダーのニーズに配慮せずして、長期的な収益を実現することはできません。

配慮なく製品価格を引き上げる医薬品メーカー、安全を軽視する鉱山会社、顧客本位を実践をしない銀行は、短期的にはリターンを最大化することができるかもしれません。

しかし、これまで再三目の当たりにしてきたように、社会に損害を与える企業はいずれ自らの行為に対するしっぺ返しを受け、株主価値を棄損することになります。

対照的に、強い企業理念を掲げ、ステークホルダーに真摯に向き合う企業は、顧客とより深くつながり、絶えず変化する社会の要求に適応することができるでしょう。

究極的には、企業理念が長期的な収益性の源泉となるのです

ステークホルダーへの対応、あるいはサステナビリティ課題に向けた適切な対応を怠る企業や国に対して、いずれ市場は懐疑的な見方をとるようになり、その結果、資本コストは上昇することになります。一方で、透明性を重視し、ステークホルダーに真摯に対応する企業や国は、質が高く忍耐強い資本を含め、より効果的に資本を集めることができます。 (出所:ブラックロック公式サイト)

 

 印象的な言葉だ。もうファンドも、利益の最大化だけを求めているわけではない。

 私たち顧客や従業員をはじめてとするすべてのステークホルダーへの貢献が企業の成長の証になるといっている。 

 「サスティナビリティ」を蔑ろにすることはもうできない。

 


「関連文書」

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 (写真出所:World Economic Forum | Flickr